「社宅だから社会保険料には関係ない」は間違い?知らないと損する「現物給与」の考え方

給与というと、毎月振り込まれる基本給や各種手当をイメージする方が多いのではないでしょうか。

しかし、社会保険の世界では、現金で支給されていない「食事」や「住宅」なども、一定の場合には給与として扱われます。

これを「現物給与」といいます。

たとえば、会社が従業員に社宅を無償または低額で貸している、勤務日に会社から食事を提供している、といったケースでは、その経済的な利益を一定のルールで金銭に換算し、通常の給与と合算して社会保険の標準報酬月額を計算する必要があります。

さらに、令和8年(2026年)10月1日からは住宅の現物給与について算定方法が変更されます。

今回は、企業の給与計算担当者や経営者が見落としやすい現物給与について、少し詳しく解説します。


現物給与とは?「現金で払っていないから対象外」ではありません

健康保険・厚生年金保険における「報酬」は、単純に現金で受け取る給与だけを意味するものではありません。

労働の対償として経常的・実質的に受けるものであれば、食事や住宅などの現物による給付も報酬に含まれます。

したがって、会社が従業員に対して、

・社宅や寮を貸与している
・会社が食事を提供している
・自社製品などを給与の一部として支給している
・通勤定期券を現物で支給している

といった場合には、現物給与として社会保険上の報酬に含める必要がある場合があります。

重要なのは、「会社が現金を支払ったか」ではなく、「労働の対償として経済的利益を受けているか」という視点です。

現物給与に該当する場合、その価額を一定の方法で金銭に換算し、通常の給与と合算して標準報酬月額を決定します。

なお、食事や住宅については、実際に会社が負担した金額をそのまま使うのではなく、原則として都道府県ごとに定められた「現物給与の価額」を使用します。


食事の現物給与は「会社がいくら負担したか」では決まらない

食事については、会社が従業員に提供している場合、その価額を現物給与として算定することになります。

ここで注意したいのが、現物給与の価額は、原則として会社が実際に負担した食材費や弁当代そのものではないという点です。

令和8年4月1日からは食事の現物給与価額が改定されており、例えば東京都の場合、1人1カ月当たりの食事の価額は25,500円、1人1日当たりでは850円とされています。昼食のみの場合は1日300円です。

ただし、従業員から食事代を徴収している場合には、少し複雑になります。

たとえば東京都で1カ月25,500円の現物給与価額となる食事について、従業員から10,000円を徴収しているとします。

この場合、徴収額が現物給与価額の3分の2未満であれば、

25,500円-10,000円=15,500円

となり、15,500円が現物給与として報酬に加算されます。

一方、従業員から17,000円以上を徴収している場合は、徴収額が現物給与価額の3分の2以上となるため、食事の現物給与はないものとして扱われます。

このあたりは、「従業員から少しでも食事代をもらっていれば現物給与にならない」という誤解が生じやすいポイントです。


社宅・住宅の現物給与は、令和8年10月から計算方法が変わる

住宅の現物給与については、さらに注意が必要です。

これまでは、原則として「居住用の室」の畳数を基準として、都道府県ごとに定められた1畳当たりの価額を乗じて計算していました。

しかし、令和8年10月1日からは、住宅の総面積1㎡当たりの価額を使用する方法に変更されます。

例えば東京都では、令和8年9月30日までは1畳当たり2,830円ですが、10月1日以降は総面積1㎡当たり1,330円となります。

さらに、これまで住宅の算定対象から除かれていた台所、トイレ、浴室、廊下などについても、10月1日以降は原則として総面積に含めて計算することになります。

例えば40㎡の社宅であれば、

40㎡ × 1,330円 = 53,200円

が東京都における住宅の現物給与価額となります。

一方、従業員から家賃を徴収している場合には、その徴収額を差し引いて現物給与額を計算します。

たとえば現物給与価額が53,200円で、本人から30,000円の家賃を徴収しているのであれば、

53,200円-30,000円=23,200円

が現物給与として扱われることになります。

つまり、「家賃を徴収しているから現物給与ではない」ということではありません。

本人負担額がいくらなのか、そして現物給与価額がいくらなのかを比較して計算する必要があります。

また、現物給与の価額は勤務地の都道府県を基準とするのが基本です。例えば勤務地が東京都で、社宅が埼玉県にあったとしても、原則として東京都の価額を使用します。本社と支店等が1つの適用事業所となっている場合には、それぞれの勤務地に応じた価額を使用するという特殊な取り扱いもあります。


現物給与の「算入漏れ」は、社会保険の調査でも注意したいポイント

現物給与で特に注意したいのが、給与計算では現物給与をまったく意識しておらず、標準報酬月額にも反映していないケースです。

例えば、基本給30万円の従業員に会社が社宅を無償提供しており、社会保険上の現物給与が月2万円だったとします。

この場合、社会保険上の報酬は、

30万円+2万円=32万円

として考える必要があります。

現物給与を加算しないまま算定基礎届などを提出していると、標準報酬月額が本来より低く決定されてしまう可能性があります。

実際に、現物給与の算入漏れを原因として標準報酬月額が誤って決定されていた事例も紹介されています。住宅について本人から一定額を徴収していたとしても、それだけで現物給与に該当しなくなるわけではありません。

さらに、現物給与の価額が改定された場合には、その改定が「固定的賃金の変動」に該当し、一定の条件を満たすと月額変更届が必要になる可能性があります。令和8年の改定についても、現物給与価額の変更は固定的賃金の変動に該当するとされています。


まとめ

現物給与は、給与計算では見落とされやすい一方で、社会保険料を計算するうえでは非常に重要な論点です。

特に社宅・寮を提供している会社や、従業員に食事を提供している会社では、「現金給与だけを見て社会保険料を計算する」という方法では不十分な場合があります。

そして令和8年10月1日からは、住宅の現物給与について「畳数」から「総面積1㎡」を基準とする計算方法に変更されます。

社宅の面積や本人負担額、食事代の徴収額などを一度整理し、現在の標準報酬月額の計算に現物給与が正しく反映されているか確認しておくと安心です。

「うちの社宅は現物給与に該当するのか」「本人から家賃を取っている場合はどうなるのか」「10月から何か手続きが必要なのか」など、判断が難しいケースも少なくありません。

現物給与を含めた社会保険の適正な取り扱いについては、社会保険労務士に確認することをおすすめします。

社会保険労務士事務所Labor Partnerでは、社会保険の加入・算定・月額変更などの手続きだけでなく、給与の支給方法や社宅・食事の提供状況なども踏まえた社会保険上の取り扱いについてご相談いただけます。

社会保険労務士 髙田 登史子

⇒社会保険手続き


社会保険手続き

社会保険・労働保険手続き

社労士スポット代行

社保スポ